連載「タコのいる日々」とは
タコは賢い!・・・って、知ってましたか?海の賢者とも呼ばれる、無脊椎動物最高クラスの知性をもった生き物、マダコ。その知性は、ユーモラスで温かいんです。そんなマダコたちと一緒に過ごす、てんやわんやの楽しい日々。そして、寿命たった1年の生き物と一生を共にして培われる絆。連載「タコのいる日々」では、そんなマダコ飼育とマダコのいる日々の風景をお届けします。

みなさんこんにちは、もちです。今回は、私が一緒に過ごしてきたタコたちの中でも、最初にアイドルダコになった子、マダコの“うめぼし”との思い出を紹介します。
うめぼしはメディアで大活躍したタコです。『飼い主に対して、手を振り返すタコがいる!?』という映像がスポットライトを浴び、数々のテレビ番組に出演。私が執筆した記事などでも大活躍をしてくれたのでした。
そしてなんといっても、うめぼしは、私が初めて飼育したマダコ。私の心をタコの世界に引きずり込んだ世界でたった1匹の特別な存在です。そう、前回のタコへの一目惚れのくだり・・・あの日あの瞳で私を見つめ、優雅な動きと美しい姿で私の心を射抜いたのは何を隠そう“うめぼし”です。

初めてのマダコ飼育が始まった!
あの日、熱帯魚屋さんで見せてもらった餌やり。その知的で優美な所作に一目ぼれした私は、その日のうちに後のうめぼしを連れて帰ってしまったのでした。期待したのは、もちろんタコとのスキンシップ。
飼い主としては、なんといってもまずは餌やり。餌やりは、お魚の飼育でも代表的なスキンシップです。私は深海魚のハシキンメにも素手で餌を与えるなど、どんな生き物ともスキンシップを取ることを大切にしています。これには、特に飼育上の都合があるわけではありません。楽しいし、距離が近いような気持になれるというだけのことです。マダコは、観察する限り間違いなく素手で餌を与えられるタイプの生き物、そう感じられたのでした。
水槽に落ち着いた頃合いを見計らったのかフライングしたのか、それは今となってはわかりませんが……ワクワクドキドキしながら、オキアミを与えたのでした。

飼い主の手から直接餌を食べるハシキンメ
私は色々な海水魚に素手で餌を与えてきている
予想と実際
手から餌を受け取ってくれたら嬉しいな。あの視線を私にも投げかけてくれたら嬉しいな。可愛らしい形の生き物が可愛い動きをして泳ぎ回ってくれたらいいな。色々な妄想が膨らみました。どんな生き物でも、飼育する前からあれこれ夢を見てしまうものです。

タコの視線から何を感じますか?
果たしてうめぼしは、私の手からとっても可愛い仕草で拍子抜けするほどすんなりと餌を受け取ってくれたのでした。やった!ちゃんと餌を食べてくれるというのは、生き物をお迎えしたときの最初の関門です。ほっと一息。そして、とっても嬉しかったです。
でも、その後にはもっともっと嬉しいことがたくさん。飼育をしてみるとマダコは私が思っていたよりもずっとずっと複雑で、知識欲や好奇心に溢れ、愛嬌のある生き物だったのです。また、とっても気ままで我儘で、賢いぶん時にはたちが悪く手も焼かせる。そんな愛せる憎たらしさをもっている、なんていう側面もあるのでした。
うめぼしとの思い出
うめぼしとのエピソードは数えきれませんが、そのうちの一つをご紹介します。
反復する遊びから感じる意思疎通
タコは水槽内で飼育する生き物ですから、水槽内に手を入れて直接触れ合うこともできますが、多くのコミュニケーションはガラス越しになります。ガラス越しに指で追いかけっこをしたのはとても楽しい思い出です。
飼い主がタッチした水槽のガラス面を、うめぼししがタッチをしてきます。別の水槽のガラス面をタッチすると、そこをうめぼしがまたタッチしてきます。私の指とうめぼしの腕がぴたっと合わさった時には、うめぼしの目の周りの色がじわっと濃くなります。喜んでいるのです。
私は、犬を飼育した経験があります。投げたボールを持って帰ってきてもらうという単調な遊びの中にある意思疎通に尊さを感じたものでした。それに近しいものを、マダコの飼育で体感することができる。そううめぼしが教えてくれたのでした。

飼い主とのあそびを楽しんでいるうめぼし 目の周りの色が濃く変化している
うめぼし物語
私が一般家庭でのタコの長期飼育を一生ものと決意した、その私の背中を押してくれたのもうめぼし。今では少し申し訳ない気持ちになることもありますが……。
うめぼしは、アクアリウムを今日から始めてみよう!という方がどこでも購入できる一般的な水槽セットに、タコ壺などのちょっとしたオブジェを入れただけの、マダコを飼育するにしては簡素な水槽で飼育されました 。
今はその場所ではオーダーメイドに加え、改造も施したマダコ飼育に特化した水槽が鎮座して、“にんにく”という子ダコを飼育しています。でも、振り返ればまだそこにあの簡素な水槽があって、うめぼしがこっちを見て手を振ってくれているような気持になる日がある。そんな存在感を残してくれた1匹のマダコ。それがうめぼしとの物語。
今回はうめぼしの飼育のエピソードを散りばめながら、うめぼしと過ごした日々の半分くらいをご紹介しました。タコの多くは短命で、マダコの寿命は1年程と言われています。うめぼしと過ごした期間はたったの100日ほど。ですが振り返ってみれば、そこに何年も一緒にいたような沢山の思い出や出来事があります。次回は、また一味違ったうめぼしとの思い出をご紹介、そしてお別れまでを綴ります。
ぜひ、引き続き「タコのいる日々」を応援頂ければ嬉しいです!
「うめぼし」という名の由来を聞き、「なるほど」でした。かわいらしい名前で。
うめぼしの100日。そんなに大切に思われながらの一日一日。きっとうめぼしは毎日嬉しかったでしょうね。その水槽に飼われて、他ではできなかった経験をうめぼしもできたのかもしれませんね。