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連載エッセイ

初めて飼ったタコ:うめぼし物語(後編)|タコのいる日々 [3]

連載「タコのいる日々」とは
タコは賢い!・・・って、知ってましたか?海の賢者とも呼ばれる、無脊椎動物最高クラスの知性をもった生き物、マダコ。その知性は、ユーモラスで温かいんです。そんなマダコたちと一緒に過ごす、てんやわんやの楽しい日々。そして、寿命たった1年の生き物と一生を共にして培われる絆。連載「タコのいる日々」では、そんなマダコ飼育とマダコのいる日々の風景をお届けします。
飼育中のタコと私の相関図
過去に飼育した歴代のタコたち

初めて飼育したマダコのうめぼし

前回のあらすじ

私を家庭でのタコ飼育に引きずり込み、「タコのいる日々」を連載するほどまでに興味を惹きつけたマダコとの出会い。一目惚れから始まったタコ飼育は、知的な生き物との絆づくりに発展していったのでした。

私と手を合わせて遊ぶうめぼし。手の形をまねしているつもりなのだろうか?

私と手を合わせて遊ぶうめぼし。手の形をまねしているつもりなのだろうか?

みなさんこんにちは。今回もタコ一色に染まっていきましょう!よろしくお願いします!

うめぼしとの思い出

気持ち・機嫌を表現

今現在、私は、マダコにカニとエビのみを与えて終生飼育をしています。ですが、うめぼしは初めて飼育をしたタコ。いろいろな餌を与えてみるという試行錯誤を繰り返したのでした。

結局、我が家で飼育をしてきたマダコはエビとカニが特に好き。そして、それ以外はあまり好きではありませんでした。青魚やイカ、貝類なども食すると聞いてはいましたが、実際に与えてみると好みませんでした。どちらかと言えば嫌いそう。そして、グルメ気質なので、味を占めると好きではない餌はよほど空腹にならないと食べません。

空腹になると、水槽上部に貼り付いて餌を催促してくる

空腹になると、水槽上部に貼り付いて餌を催促してくる

特定の餌だけで飼育して大丈夫かな?と心配になったこともありましたが、これまで飼育してきたタコたちは皆ちゃんと健康に大きく育ち、長生きしているので、餌については好きなエビとカニを与えるようにして、嫌いなものは積極的には与えません。

今となってはそのような餌の与え方をしていますが……色々な餌を与えると、それだけ色々な反応が見られました。そして、その反応は「食べられる・食べられない」というより、「好き・嫌い」。時には、「今はこれでもいい・今これは食べたくない」といった、私たちで言うと「今何の口なのか(何を食べたい気分か)」といった心情を示すものであり、興味深かったです。

初めての餌を食べ、身体を左右に揺らして興奮するうめぼし

初めての餌を食べ、身体を左右に揺らして興奮するうめぼし

マダコは餌に限らず初見のものに興味関心を抱き、それらに触れてみることで好奇心を満たしていると感じられるところがあります。初めての餌を食べたうめぼしは、にょきにょきといつもとは違う動きをして、体色もめまぐるしく変化しました。

美味しい時はそれっぽい反応をしますし、嫌いな味だった時はあからさまに嫌そうな反応をします。身体の形や色が激しく変化するので、そういった気持ちの変化が分かりやすいのです。いうなれば、マダコの機嫌が視覚化される……ということでしょうか。そして、それは給餌のシーンに限ったことではなく、他の色々なシーンでもタコは態度(笑)を表現します。心情変化を表現してくれるのです。マダコの可愛いところです。

② 気持ちの共有

マダコとは意思疎通ができると私は考えています。その理由の一つをご紹介します。マダコとは、双方向でやりとりできることがよくあります。前回ご紹介した「遊び」が一つの例で、水槽の色々なところでハイタッチをするという遊びが成立します。

最初は私が先に水槽をタッチしていましたが、そのうちうめぼしの方から水槽のガラス面をタッチしてくることも増えました。そこに私が指を触れてあげると、うめぼしの喜び具合が倍くらいに跳ね上がり、身体中の色や肌質をチカチカ変化させて喜びます。

また、「餌など物体のやりとり」や、「遊び行為のやりとり」の延長に、マダコと「気持ち」のやりとりが成立するように感じられたのでした。たとえば、先の餌についてですが……

「いらない!」と投げ捨てた餌を何度も与えると……最後の最後はもらってくれるんです。他にも、私が何かをしてほしくて何度も何度も繰り返しその行為を試みた時……マダコは頭の周りを撫でまわしたりしながら考え、最後の最後は私がやって欲しいことをどうにかして汲み取ってくれるのです。数十分すると、欲しくなかった餌がちょっとだけ齧られて、水槽の見えにくいところにそっと捨ててあるのを見つけることができます。餌はいらなかったのです。でも、気持ちは受け取ってくれたのかもしれませんよね。

わがままなところもあるけれど、実は優しくて気遣いをしてくれるタコ

わがままなところもあるけれど、実は優しくて気遣いをしてくれるタコ

私は、マダコを飼育していて温かい気持ちになります。その理由は、このような気持ちのキャッチボールが成立したと感じることがあるからです。マダコが私に対して傾聴の姿勢をとってくれることに喜びを感じます。

③ 時間の共有

私が苛立っている時、悲しんでいる時、楽しんでいる時……。その時々の私の周囲の空気を水槽の中から読みとれるのでしょうか。私が特に分かりやすく強い感情を抱いている時、マダコはどうにかしてそれを察して、身を乗り出して聞いてくれるのです。

私はあまりお酒が強くありませんが、水槽のそばで自作のカクテルを作り晩酌を楽しんでいます。楽しく飲んでいると、うめぼしがタコ壺から身を乗り出してくるのでした。試しに、「乾杯!」とってうめぼしに向かってグラスを差し出したところ、うめぼしもふんわりとこっちに腕を振り回してくれました。なんだか、乾杯をし返してくれたようでした。

グラスに向かって腕を伸ばしてくるうめぼし

グラスに向かって腕を伸ばしてくるうめぼし

またある時は、おつまみを食べながらうめぼしを見ていると、うめぼしの目も笑っているように見えました。私がここにいて機嫌よくしている時……うめぼしもいつも腕をくねくね動かして機嫌が良さそうでした。私の気持ちに寄り添ってくれているように感じ、あらためてタコは家族なんだな……そう思ったものでした。家族のような他愛のない時間の過ごし方ができる……そんな温かさを教えてくれたのもうめぼしでした。

濃すぎた100日間・そして早すぎるお別れ

ある日うめぼしはケガをしました。水槽から水をくみ上げるポンプを私が見ていないところで解体し、中のモーターに触れ、ほぼ全ての足先を飛ばしてしまいました。私の経験上、この程度のケガはマダコにとって大したことではありません。すぐに再生するものです。ですが、初めて飼育したマダコということもあり、適正な飼育設備でなかった当時の水質環境では、この小さなケガが自然回復に至らず、うめぼしにとっては致命的だったのです。

それから24時間も経たずして、うめぼしはなんとなく心ここにあらず、というような状態になり、翌日には自分の足を食べ始めてしまいました。そこからどんどん自食が進み、足を飛ばしてから数日足らずで死んでしまったのでした。

たった100日間でしたが、これでもここに綴り切れない思い出がありました。凄く濃密な毎日をうめぼしとは過ごしてきました。そんなうめぼしは、あまりにもあっけなくあっという間に旅立ってしまったのでした。少しずつ弱っていくのではなく、あれよあれよという間に水槽の底に沈んで、そしてその呼吸を止めてしまいました。涙が溢れました。気持ちが溢れました。沢山の気持ちや感情をうめぼしとは共有しました。もっともっと、うめぼしとは一緒に居られるつもりでした。

うめぼしを飼育していた水槽があったところに、今はもうその水槽はありません。その代わりに、マダコ飼育に特化した水槽が置かれています。でも、振り返ればまだそこにあの時のあの水槽がまだあって、まだうめぼしがいて、こっちを見て手を振ってくれているんじゃないか。そんな気分に、今でもなります。うめぼしのペットロスは深く重く辛かったです。

水槽があった場所を見ると、うめぼしが今にも壺から出てきてくれるような気がしてしまう

水槽があった場所を見ると、うめぼしが今にも壺から出てきてくれるような気がしてしまう

乗り越えるのが、とても大変でした。マダコの寿命は1年程度です。マダコを今後も飼育していくとなると、毎年そんなペットロスがあるのかな。そう思いました。でも、うめぼしが見せてくれた「タコのいる日々」にあった幸せは、その後……私に「やっぱり、これからもタコと日々を歩んでいきたい」と思わせてくれたのでした。

タコを飼育するために、水槽をオーダーメイドしました。色々な改造を施し、工夫もしました。勉強もし直しました。今では、マダコはみんな長生きをするようになりました。うめぼしの飼育期間は100日ほどでした。コンビニのおにぎりくらいのサイズでお迎えして、そのくらいのサイズで亡くなりました。後に同じくらいのサイズでお迎えしたマダコは、今では軒並み100日ほどで1㎏を優に超えそうな巨ダコに成長しています。

飼育設備や水質環境は、やっぱり不十分だったのでした。今では少し申し訳ない気持ちになることもありますが……うめぼしはタコのいる日々の素敵さを教えてくれて、また、マダコと長く過ごすための準備と決意の背中を押してくれたおかげで、私のタコとくらす日々(人生?)が始まったのでした。

うめぼし亡き後

その後、私は色々なタコを飼育していくことになります。マメダコに似たタコの亜種(正確に名前などが決まっていないもの)や、深海性のタコであるイッカクダコ、有毒の美麗種であるサメハダテナガダコなど、マダコ以外の飼育も経由し、十タコ十色の絆や思い出を共有してきました。これからは、そんなタコと過ごしてきた私の日々のいち場面いち場面を深く掘り下げて紹介していきます。ぜひ、次回以降も楽しみにお待ちください!

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もち

もち

ホペイフリーク副代表・アクア部門代表

海洋生物を求め東京都を拠点として全国を奔走。訪問済み水族館数は2025年1月時点で42館。ある日タコに一目惚れしてから人生が一変。タコ飼育に没入。これまで10匹以上のタコを飼育してきた。テレビ出演・メディア執筆に加え、SNSやブログなどでもタコの魅力を紹介中。

  1. 初めて飼ったタコ:うめぼし物語(後編)|タコのいる日々 [3]

  2. 初めて飼ったタコ:うめぼし物語(前編)|タコのいる日々 [2]

  3. 一目惚れ!タコのいる暮らしはこうして始まった!|タコのいる日々 [1]

コメント

    • ぶろっこ
    • 2025.06.15 9:34pm

    うめぼしが亡くなった時のこと、読んでいても辛くなったので、もちさんは想像できないくらい辛かったと思います。
    たぶん、もちさんがうめぼしのことを思い出すように、うめぼしがそこにいると感じるように、近くでもちさんを見ているときもあるかもしれませんね。(たぶんあるんだろうなと思います。)

    • もち

      今回もコメントくださり、ありがとうございます!

      うめぼしのおかげで、今のタコたちが元気に長生きしてくれているので、うめぼしには感謝の気持ちでいっぱいです。そばで見守ってくれているといいな、と思います。
      そして亡くなった後も、こうして皆様に存在を認知してもらえていることを、うめぼしにも見てもらえていたらいいなと思います。
      温かいお言葉、ありがとうございました!

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