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インタビュー

熱水発見や進化論着想の舞台ガラパゴスのリアルをJAMSTECのCHENさんに訊く

日本から遠く離れた、赤道まわりの太平洋に浮かぶガラパゴス諸島。その周辺海域へ昨年11月、調査に出た研究チームの中にJAMSTEC主任研究員のChong CHEN博士がいた。

生命の起源、ダーウィン、進化論。大きな文脈の中で語られることの多いガラパゴスだけど、実際どんなところなんだろう?もっと身近な感覚で知りたいガラパゴス。独自の進化を遂げた生物を、深い海の底を、その目で見てきたCHENさん。教えてください!

数十年単位で熱水活動が死んだり生まれたりする

ガラパゴスというと、日本ではガラパゴス携帯に代表されるようなやや皮肉のこもったニュアンスを受け取るかもしれない。沿岸から1000キロメートルも離れた孤島の生き物たちが遂げた独自進化に由来した言葉だが、実際のガラパゴスにはただただ謎に満ちた豊かな生態系があるようで、多くの研究者たちが関心を寄せている。

少年時代から貝を愛し、熱水域に生息する謎の巻貝「スケーリーフット」に導かれるようにJAMSTECの研究員となったCHENさんにとって、1977年に世界ではじめて深海熱水が発見されたガラパゴスリフトの海底は長年の憧れの地。

新型コロナウイルスの影響による紆余曲折があり、ようやく彼の地に辿り着いた時、CHENさんは日本周辺の海域とはまったく異なる深い海のようすと、そこに生きる者たちに圧倒されたという。

正式にはハオリムシと呼ばれる管状の生物・チューブワーム。日本周辺のものは通常40〜50センチメートルほどの長さだが、ガラパゴスの深海では人の背丈を超えるほどに巨大化した種「ジャイアントチューブワーム」が群生している。

水深2,592メートル地点で群生するジャイアントチューブワーム(出典:Schmidt Ocean

ガラパゴス諸島は海嶺の上にあるが、ガラパゴス諸島を形成したマグマは海嶺から噴出したものではない。ハワイのように局所的にマントルが上昇しマグマが発生するホットスポットがあり、それがガラパゴス諸島を作ったのだ。そのような特異的な場所が海嶺、特にプレート三重点の近くにあるのは珍しいとCHENさんは話す。

深海熱水の栄枯盛衰

特異な地質背景を持ち、熱水の生き死にのサイクルが比較的早いガラパゴスの深海。CHENさんらが乗るシュミット海洋研究所の調査船「Falkor (too)」号に搭載された無人探査機(ROV)「SuBastian」の4Kカメラが、生命のうつりかわりを克明に捉えていた。

熱水噴出孔が初めて発見されたのは、わずか47年前の1977年。のちに「ローズガーデン」と命名された10〜12度ほどの低温熱水域だったが、2年後に東太平洋で200度以上の水が吹き出す高温熱水や、それが作るブラックスモーカーが見つかったことで研究者たちから忘れ去られてしまう。

今回、研究チームはその「ローズガーデン」を再訪した。かつて世界を騒がせた熱水発見の地は、熱水の噴き出しが住処にしていた生物もろとも絶えていた。CHENさんによると、「ローズガーデン」の熱水生物群集が完全に死滅したのはこの10年のあいだの出来事だと考えられるという。

ガラパゴスの「ローズガーデン」はしんと静まりかえっていた(出典:Schmidt Ocean

海底でひっそりと静かに死に絶える熱水や生物があれば、新たに誕生した熱水や発見された生物もある。深海底で最先端のマッピング技術を駆使して見つかったのは、高さ10〜15メートルの熱水噴出孔群が数十本も立っている高温熱水域。この熱水は研究チームによって“亀”を意味する「トルトゥガス」と名付けられた。

今回の調査で発見された高温熱水噴出孔群「トルトゥガス」(出典:Schmidt Ocean Institute – Ultra Fine-Scale Seafloor Mapping –Press Release(2023))

そして、熱水のあるところには生命あり。「トルトゥガス」の周辺で、これまでガラパゴスリフトで確認されていなかった高温熱水の近くに分布する動物群集が確認され、熱水発見の聖地に生息する動物種のリストが更新された。

ガラパゴスリフトの熱水噴出孔から採取された動物標本(出典:https://link.springer.com/article/10.1007/s12526-024-01408-w

熱水の存在が世に出てからもうすぐ半世紀。聖地・ガラパゴスには、まだまだ未知の世界が広がっている。

心の距離が急速に縮まる、ガラパゴス

約1ヶ月の航海を終えた研究チームは、ガラパゴス諸島で最も人口の多い島サンタ・クルス島のプエルト・アヨラに寄港し、そこでも他では見られない生物と出会う。

CHENさんよりはるかに大きいガラパゴスゾウガメ(写真提供:Chong CHEN博士)

サンタ・クルス島ではベンチでくつろぐアシカにも出合える(写真提供:Chong CHEN博士)

とてもじゃないけど、行けるようなところではないイメージしかなかったガラパゴス。いまや観光で栄える島のメインストリートはまるでテーマパークのように綺麗に作り込まれていて、観光客向けの飲食店やみやげもの屋が並ぶというCHENさんの話を聞いているうちに、なんだか心の距離が近くなった。

島内の道も建物も、驚くほどきれいに整備されている(写真提供:Chong CHEN博士)

ガラスのデコレーションにシュモクザメらしきシルエットが見える(写真提供:Chong CHEN博士)

ガラパゴス諸島には空港が2つあり、エクアドルから日に十数便も飛行機が飛んでいるのだという。桜島と鹿児島港を往復するフェリーみたいだなと思うと、地球の裏側にある赤道直下の南国の島が急に、行きたいところリストに入ってくる。

とはいえ、わたしたちにとって深い海の底が“ほぼ行けない場所”であることには変わりない。まだまだ十分に研究し尽くされていないというガラパゴスに、これからも注目したい。

掲載論文
CHEN C,Jamieson JW,Tunnicliffe V (2024). Hydrothermal vent fauna of the Galápagos Rift:updated species list with new records. Marine Biodiversity,54:16. DOI:10.1007/s12526-024-01408-w
https://link.springer.com/article/10.1007/s12526-024-01408-w

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