こんにちは、脈です。
家から600メートルほどのところにパン屋があります。店内は、お客同士がすれ違うのに大層気を使うような狭さ。地元ではちょっとした人気があり、市内には片手でおさまるくらいの数の店舗があるのですが、その中でもひときわ小さく、年季が入っていて、いちばん遅く開いて、いちばん早く閉まる。そんなささやかなパン屋です。
3年ほど前に改装工事がはじまり、長らく休業に。半年以上が経って、すっかり見違える姿で再オープンした後は、1度も行ったことがありませんでした。
出張先でもパン屋には立ち寄るほど、パン大好き人間のわたしですので、パン屋のチェックは行き届いています。車で10分も走ればお気に入りのパン屋(ちょっと高級)があったし、散歩がてら20分ほど歩けば、最近になって見つけた美味しいパン屋(おしゃれに素朴)もある。あのささやかなパン屋の休業中もその後も、“明日のパン”に困ることはなかったのです。
さて、先日。朝食べるものが何もなかった日。ふと思い立ってあのパン屋に。5分はかかるけど、10分はかからない距離。日傘をさしてのんびり歩き、パンをふたつ買って、同じ道を歩いて帰る。ぶら下げた買い物袋が川沿いで風を受けて小さく揺れた時、「暮らし」を強烈に感じました。
その感覚が、あまりにも心強くて。
日本中どこでも運転できるし、出張も多い。世間で評判のブーランジェリーにも、偶然見つけた名店にも、それが何十キロ、何百キロ先でも行こうと思えば行ける。すごく自由で広い世界を持っているようで、それでも地に足のついた「暮らし」というものは、家の周囲1キロくらいの中におさまっている。
ここが、自分の暮らしの匂いが立ち上る場所なのだと。かつての年季はすっかり綺麗に拭き取られたけど、身ひとつでふらっと行ける相変わらずささやかなパン屋を頼もしく思ったのでした。
さぁ、7月になりました。昨日Twitterでお知らせしたとおり、もちさんに続いて「日本いか連合」のメンバーであり、『いか生活』編集長の佐野まいけるさんがフカメディアにやってきます。淡々としているようで内包しているエネルギーは未知数。まいけるさんの独特なタッチで綴られるイカ偏愛エッセイ「イカ沼通信」は、7月10日からスタートです。

不定期で届くまいけるさんからの通信をお楽しみに。
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