2025.11.21
船にはけっこう強い方かもしれない。
そんなのは思い過ごしでした。
夫の故郷である大分への帰省にフェリーを使うことがあるし、仕事で島に行く機会もしばしば。20数名定員の漁船から高速でぶっ飛ばすジェットフォイルまで、さまざまなタイプの船に乗る機会がありましたが、酔い止め薬が必要な状況になることは一度もありませんでした。
先月、撮影で佐渡島へ渡る際に乗ったカーフェリーでパソコン作業をしていたら、「船で下向いてたら酔いませんか?」と聞かれて初めて、酔いやすい動作というのを認識したぐらい。たぶん自分が置かれている状況を深く考える前に受け入れるから、船の中でも平気で書き物をするし、どこでも寝られるんだと思います。

佐渡汽船のカーフェリー「ときわ丸」。全長は「みらい」よりちょっと長い135メートル。
それでも、経験のない研究船での航海には多少の不安がありました。
これまでに乗った船の中で、もっとも時間が長いのは神戸ー大分を結ぶ「さんふらわあ」。長いといっても12時間くらいのもので、港を出たら17日間いちども陸に戻らない今回の航海はあまりにもかけ離れています。沿岸から遠く離れた沖合を航行することが、どれくらい揺れをもたらすのかも予想がつきませんでした。
出航していきなり酔ったら、3日ぐらい寝込んで使い物にならないかもしれない。そのくらいの覚悟はして酔い止め薬を携え、挑みました。
出航日から3日間は予防的に薬を服用。これがよく効いていたのか、そもそも酔わなかったのか判別はつきませんでしたが、4日目には「飲まなくてもいけるかもしれない」と思える手応えがありました。取材の合間に日記やエッセイを書いたり、手帳を広げてアウトプットの構想を練ったり。船内をあちこち動き回り頭を使っている中で、やけに眠気が襲ってくるのが厄介でした。
日ごろ昼寝をすることはほぼないのですが、この航海取材では少し横にならないと何も手につかないほど眠くなる。朝が早いからか、それとも日々大量に与えられる食事の食べ疲れをしているのか。その答えは薬を飲まずに過ごしていた4日目の夜に知ることに。
「船酔いの初期は眠気が来るんですよ」
夕食の席での航海士Mさんの言葉を聞いて、それなりに船酔いしてたんだ!と理解しました。
酔い止め薬を飲んだら飲んだで、副作用で眠気が来る。酔っていなくても、海が穏やかな日はゆりかご効果が発揮されて眠くなる。結局、どうしたって船の中では眠くなるようです。
持ってきた酔い止め薬は6カプセル入りの一箱。これを飲んだり飲まなかったりして、海が荒れる時に備えて温存。最後のひとつを大事に持っていると何かの話の流れで言ったのを覚えてくれていたOBSチームの先生が後日、「大量に持ってきてるから」と分けてくれました。

しかも一箱まるごとくれた。
その昔「涙の数だけ強くなれる」と歌った歌手がいましたが、船酔いの数だけ優しくなれるのもまた人のようです。
この日は観測の作業はなく、研究チームはこれまでに採取した試料の処理で1日ラボ勤め。わたしも溜まった書き物の山を少しでも削ろうと部屋にこもっていました。
分けてもらった酔い止め薬を心置きなく飲み、人の優しさに心を打たれながら、今日も「みらい」に揺られています。



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