ツバスくらいには出世できたんじゃないかとは、とんだ思い過ごしだった。
浜松から一気に走り抜き、高速を下りて清水の街に入った時には、もうとっくに5時を過ぎていた。23時過ぎに地元のインターチェンジを通過したので、6時間半弱ののんびりした道中。東京から同じように向かってくれているクリエイターさんとの待ち合わせは6時半なので、いったん船を確認しに行くにはちょうどいい時間だった。
そういえば清水港には地球深部探査船「ちきゅう」も帰ってきている。「みらい」と並んでいる姿が見られるのでは?と期待して、対岸の三保半島へ行ってみる。
わたしはこの時、すっかりだめになっていた。
航海から帰ってきて「みらい」を下りたのは日の出埠頭で、そこから場所は変わっていない。ドローンの飛行許可を取るのにも、自分で申請書に日の出埠頭と打ち込んでいる。そして、「ちきゅう」がいるのは袖師の方。清水港全体の位置関係はこんな感じになっている。

ピンクのところが日の出埠頭で、袖師は画面の中でいちばん上の水色のところ。地図で見るとすぐ近くのようで、実際は5、6km離れている。自由に立ち入りができる撮影ポイントとして向かったのは、三保真崎海水浴場のあたり。緑色で塗られた貝塚エリアには工場の建屋がひしめいていて、「ちきゅう」と並んでいる姿どころか、日の出埠頭はほとんど見えっこないのだ。
そのことに気付いたのは、波が打ち寄せる防波堤の先端まで行き、「ちきゅう」の姿をとらえた時だった。時すでに遅し。何しろ早朝の容赦なく冷たい海風が吹きつけてくる。フードを目深に被っても太刀打ちできない。せめて「ちきゅう」だけでも……とガタガタ震えながら撮った写真には、誰も「ちきゅう」だと信じてくれなさそうな物体が写っていた。船の写真ヘタクソ選手権があったら、いいところまでいけるんじゃないかと思う。

私の知ってるかっこいい「ちきゅう」じゃない。
違う。こんな写真が撮りたかったんじゃない。朝の5時台にわたしは一体なにをやっているんだ。11ヶ月前とそんなに変わらないポンコツぶり、ぜんぜん出世できていなかった。
巡視船らしき船が近くを通る。こんな時間にガタガタ震えながら写真を撮っている女は、不審でしかないだろう。暗くてよくわからないが、なんとなく視線を感じた気がする。そんなことをしていたら、もう6時になろうとしていた。
結局、「みらい」がまだちゃんと目指す場所にいるのか確認できないまま、待ち合わせ場所へと急ぐことに。もちろん出港日時は事前に確認していたけれど、他の船との兼ね合いで12日の夕方か13日の早朝に出る可能性もあると関係筋から聞いていたので、行ったらもういないという事態を危惧していた。完全に「よこすか」すれ違い事件のトラウマである。
6時20分過ぎ。クリエイターさんと合流すると開口一番、「先に見てきたんだけど、船泊まってるねぇ」の朗らかなひと言に、あの絶望的な寒さをすべて忘れるほど安堵したのだった。「みらい」は、すぐそこにいる!
空はようやく明るくなり始めていた。
出港まで2時間30分。



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